「夢物語解析」
'02.5.5(1)'02.5.5(2)'02.6.5'02.8.25'02.12.2'03.9.20'03.11.7'03.12.27'04.1.16


 夜明け前,東の空が少し明るくなってきた頃,店外の掃除のために店を出た.
 店の前を通る幹線道路やあまり綺麗とは言えない駐車場の上がうっすらと濡れている.夜中働いていて雨が降った記憶はない.遠くの信号が朧気だ.
 上空から光の帯が降りてきて,辺りが霧に包まれていることがわかる.徹夜特有のすがすがしさを味わえる時間だ.
 ゴミ拾いも終わり,外もだいぶ明るくなって霧も薄れてきた.早朝出勤の人と通常出勤の人の波のわずかな時間帯.一息ついていた俺は事務所の椅子に腰掛けて漫画なんかを読んでいた.
 そこへメガネをかけた小学男児が店に入ってきた.登校時間にしては早すぎる.なんだろう?といろいろ考えているうちに,男の子はカゴいっぱいの商品を抱えてレジに来た.
「いらっしゃいませ…」
 そう言ってバーコードをスキャンするのだが,量が多い.そして大きい物ばかりだ.ランドセルや傘や,よくわからない30cm四方の箱なんかもスキャンした.あるはずがないと思われる商品ばかりだったが,レジスターは次々と読み込んでいった.
「合計五万五千円になります」
 代行収納でもないのにこの金額はありえない.まして買っているのは小学生だった.
 案の定,彼は財布を取り出してはみたものの,中を覗き込んではもじもじとしている.
 ないのか?ひやかしか?
 と思ったが,もちろん口にも顔にも出さずに俺は辛抱強く待った.その間に通勤客もボチボチ来店してきていた.店内に客を孕んでいる状態というのは,その客がいつレジに来るかと気になって,ほんの少しだけストレスが溜まったりする.
 そうしている内に,またもう一人小学生が入ってきた.坊主の男の子はレジのまで止まる.
 一方メガネは,もじもじしながら,おずおずと財布からお金を出して数え始める.しかしその額というのは,
「いち,にい,さん,……,ろく,しち」
 万札である.それでいて未だもじもじと金を出しあぐねいているのだ.
 あるじゃないか.出せよ.俺はもう,でかい紙袋にこの大量の商品詰め終わって待ってるんだ.
「五万五千円になります.6万円,お預かりしましょうか?」
 丁寧に催促する俺.正直,客も増えてきたし焦っていた.ついでに,手前の坊主は何がおもしろいのかレジに触りだすし.と,
 カシッ
 坊主が何かの配線を引っこ抜いた.
 バツンッ!
 と音まではしなかったが,そんな感じでレジの画面が落ちた.
「あ!おまっ…!」
 俺は慌ててその端子を子供から取り上げ,元のプラグに差し込む.
 しかし復旧した画面は,五万五千円の商品群ではなくて,よくわからない英字の羅列を延々と表示している.
 そして更に慌てたことには,メガネの子供が商品の入った大きな紙袋を手に取って一目散に逃げ出すのだ.坊主の子と一緒に.
「あ!待て!」
 子供は,しかし,紙袋を前の道路に置き去りにして逃げていった.
 子供よりとにかく商品の確保を優先した俺は,真っ直ぐ紙袋に向かう.しかし,寸でのところで,通ってきた車が,五万五千円の紙袋を掠め取って逃げるのだ.
「あ!しまっ…!」
 俺は全力でその車を追いかけたが,追いつくはずもなく.あさっての方向に逃げていった子供達もすでに影形もない.
 とにかく店長に連絡しなくては,と思って店に戻ると,レジ前にはお客さんの列が.
「あ,はい.お待たせしました.すいませんが,隣のレジでお願いします」
 1レジが壊れているので,2レジで会計して,俺は必死にこの場を乗り切ろうとした.そして客がいなくなったらすぐ店長に電話を,と.
 しかしあろうことか,レジの客足は一向に減りそうもない.電話などする暇もなく,客をさばくしかなかった.
 そんな時,一台の黒い車が店の前に横付けしてきた.しかし中から人が出てくる気配はない.俺は(何故か)注文を聞きにその車の後部ドアを開けて,中に乗り込んだ.
 運転席,助手席には,中年の怖そうな(偉そうな)男と,その娘らしい女子高生が乗っていた.
「えー,とご注文は…?えー,駅前に行くんですか?」
 二人は何も言わずに,そして車は発進した.これはいわゆる拉致だ,と思った.しかしとにかく俺はこの車に便乗して駅前に行き,タクシーでも拾って,それで店長ちに行って…と,遅くなるが仕方ない.
 俺はそういう算段を立てたのだったが,車は駅前どころか,山あいのどことも知らない道を走っている.
「あの…本当に駅前に行くんですよね?」
 俺は何も喋らない二人に恐る恐る尋ねてみた.
「私はそんなこと言っとらんぞ」
 厳しい声でお父さんが答える.
「そんな!困ります.駅前に行って下さい!お願いします!」
 俺は必死で頼み込んだ.
 そして説得に成功して,なんとか駅前で降ろしてもらえた.
 すぐさまターミナルに乗り付けているタクシーに乗って,店長の家に向かう.
 パチンコ屋の田んぼを挟んで隣の…
「あった.あそこです.止めて下さい」
 しかし財布とケータイは事務所に置いてきたのだった.タクシー代は店長に貸してもらうことにして,俺は急いで玄関のチャイムを鳴らした.
 するとおじいちゃんが出てきた.店長の家人(ちなみに子供,幼稚園から中学生まで5人)が,特にマネージャー(奥さん)が我々とでも「おじいちゃん」と言っているからおじいちゃんとしておくが,一応オーナーである.また,店舗は無いが酒店も経営していたりする気の若い老人である.
 そのおじいちゃんが神妙な顔つきで現れた.
「あ,お早うございます.店長いますか?」
 俺は急ぎ調子でおじいちゃんの表情など見ていなかった.
「亡くなったよ…」
「え?」
 一瞬わからなかった「亡くなったよ…」
「ええっ!?」
「昨日,風邪ひいてスンスン言ってたんだが,今朝起きたら…」
「え…!そんな…!」
 言葉が出ない.俺は促されるままに家に上がらせてもらった.
 窓辺の台の上で,店長は陽光を浴びながら安らかに眠っている.周りでは子供達がエンエン泣いている.そして,バイト仲間でクラスメートのA君も駆けつけていた.彼も,なんとも言えない弱々しい表情で「店長…」などと漏らしている.
 俺も,その傍に立った.
「店長…なんでこんな…」
 胸の上で手を組んで眠っている店長は,本当に安らかで,笑っているようだった.俺は手を,そっと脇へ持っていった.
「グフッ…」
 安らかにしている店長の顔が,歪む.
「?」
 俺は脇の手をそっと動かした.
「うふっ…!ぶぐっ…!」
 明らかに笑いを堪えている…!
「店長っ!何してんすか!?」
 店長は死んだフリだった.
「あっちの店が大変なんですよ!」
 俺は,いろんな感情がゴッチャになって上手く説明ができなかった.しかし店長が事態を理解すると,
「おい!早よ行くぞ!」
 と.店長が店に来なければいけない時間はとっくに過ぎていた.
 店長が急いで自分の車に乗り込むので,俺もその車の助手席にすかさず乗り込んだ.
 シートベルトを締めると,急いだ様子で何も言わずに俺に車のキーを渡して自分は車から降り,後ろに回った.
 俺に運転しろっていうのか?
 店長は誘導する手振りをしている.仕方なく俺は,なぜか助手席側にある差し込み口にキーを差し,エンジンをかけ,車を運転する.
 何分ペーパードライバーなので,バックは苦手である.
 俺は誘導に従って,なんとか前の道に車を出した.そしてハンドルを切って,車体を車線に合わせる.しかし店長の指示はまだ続いて,バックのまま,はす向かいの焼き肉屋の駐車場に入る.そして車を看板下の側溝ぎりぎりの駐車スペースに誘導するのだ.
「無理っすよ…」
 といいながらもバックで駐車を試みた.
 ガゴッ!
「あっ!」
 タイヤが溝に嵌ってしまった.焦る!店長が急いで飛んでくる.
「何しとんっ!!貸せって!」
 と怒って俺からハンドルを奪い取る.


 何とかして俺は店長と一時間以上も無人だったコンビニに戻ってきた.
 中は一つも電気が点いていない.まるで閉店した廃店舗のようだ.
 しかし外装はまるっきり違っていた.威勢のいい中華料理店のような豪華な屋根があって,入り口の前には二階に上がる外階段があった.
 自動ドアの電源も切れいている.普段切ることはないものだから,二人はスイッチ探しに手間取った.手でドアを開け,普通ありそうな場所を手探りでスイッチを探すのである.
 電気が点きそうにないので,俺は二階に登ってみた.木製のドアがあって,鍵はかかっていなかった.俺はそっと開けて,中の様子を覗いてみた.
 普通の民家の一階だった.俺はお邪魔した.
 今らしき部屋に人がいる気配がある.女の人が数人,話をしている.三人くらいだろうが,二人はおばさんの感じで,一人は若い女性の声だ.
「ケンジは帰って来てないの?」
「あの子は帰ってこないよ」




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 この日はよく寝た.もうしんどくなるくらい寝てると,よく夢を見るんだよね.ほとんど起きてる状態で,うとうとってなったとき.俺は10時間越えないとならないかな.この日は14時間半寝た日でしたが.他にもいくつか夢見たと思います.
 さて,今回はバイトの話でしたね.名前のある登場人物は大体現実と同じ設定です.メガネと坊主の小学生とか車の父娘とか,なんなんだろうか.記憶の片鱗に出てきそうな,俺の想像のような.
 実は最後の所は同じ夢ではないかもしれません.なんだか似たような舞台だったのでくっつけました.補運当は家の中の会話とか結構あったんですが忘れてしまいました.わかるのは,ケンジというのは,浦沢直樹の「20世紀少年」のケンジです.会話していた女性は,ケンジの母と,姉と,あと叔母(漫画では出てきませんが)だと思います.
 店長の家は本当は,俺が夜勤していたコンビニとは別のコンビニと一体になっています.しかしあの家の周辺はいくつか思い当たる場所があって,それらがごちゃ混ぜになっているように思われます.
 とにかく大変な夢でした.