「夢物語解析」
'02.5.5(1)'02.5.5(2)'02.6.5'02.8.25'02.12.2'03.920'03.11.7'03.12.27'04.1.16


20020825

 俺は今走っている。うだるような暑さの中、アスファルトの照り返しにもめげずに、ひたすら街中を奔走している。なぜ走らなければならないのか、実は意外と理にかなった深そうな理由がるのだ。
 だが、その話の前に、現在の状況から説明しよう。それから遡る形で段取って、理由を説明していこうか。
 俺は今、とある男を追いかけている。そいつは工事現場でよく見かける青い中型トラックに乗った、小デブの高校生だ。小デブといっても、太いわけではない。背が低いわけでもない。がっしりとした感が強い大柄な体型のことをここでは便宜を図るため小デブと称しているのである。思い違いをなさらないように。
 そして俺は、その小デブに鉛筆を削ってあげたいらしい。俺がおぼろげに想像するに、やつは鉛筆を持っている。しかも先っちょが平らな短いものだ。俺は色鉛筆セットに付いてくる鉛筆削りを胸に、彼を探し求めて市内を駆け巡っているのである。(ちなみに、鉛筆削り屋さんをここではクリッターと呼ぶらしい)
 ここで諸君の内には漫然とした説明に、不満を覚える人もいるかもしれない。なぜなら、今のは俺が市内を駆け回る目的であって、走るという本質的な疑問の説明としてはいささか役不足な気があるからであろう。つまり、交通手段に足を使う理由にはなっていないということだ。それは同時に、小デブを追いかける要因の一つにもなっていることだから、ここでしっかり説明しておこう。
 そもそも、トラックを追いかけるのにどうして走っているのか、読者諸氏の釈然としない疑問のひとつだ。ここは普通、自動車を使うのが定石だろう。尾行の技術が拙いものであっても、普通はそうする。だが、これについてはどうともしようがない理由がある。俺は何の免許も持っていないのである。ここに来て初めて記すのは恐縮な限りだが、実は俺も小デブと同じ高校生という設定になっているのだ。それならタクシーでも使えと言われそうだが、学生は金がない。これ普通。無論、定時刻のバスや電車でトラックを追いかけるのは論外である。となれば、あとは諸学生の常用アイテム・自転車の登場だ。トラックには及ばずとも、走るには勝る自転車があれば、幾分この状況は楽になる。もちろん、俺も自転車くらい持っている。しかし、それでもこうして走っているのは、小デブのやつが俺の自転車の鍵を持っているからだ。おそらく俺が貸したのだろうが、何であれ今自転車が乗れないことには変わりない。こういったわけで、俺は今懸命に走っているのである。
 ここで気になるのが、俺とその小デブとの関係であるが、もちろん無関係であるはずがない。俺は、トラックを暴走させて回るその高校生と、同じ学校に通い、且つ同輩であり、あろうことか同じ部活動に励むであろう仲なのだ。
 それにしてはさっきから小デブ小デブとなめ腐った言い回しをなさる、と不快感を覚える読者もお出でだろう。だが、俺がやつを名前で呼ばないのは、彼の名を知らないからだ。彼は、実は今日我が部に入部したばかりの新参者なのである。ここで今朝まで遡って、彼が入部してきた時の様子を、諸設定を含めて特筆してみよう。

 今朝俺はいつものように部室へ上がる階段を上っていった。この部室だが少し変わっていて、山小屋(コテージ)の様な外観を呈している。丸太小屋の小さなやつが、階段の踊り場の横に陣取っているのである。そしてこの小さな小屋は我が部だけの部室であり、階段の踊り場は我々の手で板張りにされ、俺達の庭のようになっている。
 ウチの高校は高台に建っていて、所有するグラウンドはその下、階段を降りていった所にある。グラウンドから校舎に登る斜面には針葉樹が林立し、我々のコテージを一層よい雰囲気に演出している。
 俺達は期せずとも集まって、雑談に興じていた。そのうち一人が窓から外を覗いた。
「誰か、そこで遊んでるぞ」
 そいつは庭(踊り場)の方を指して言った。
「勧誘に行くぞ」
 誰が言ったかはわからないが、全員が考えていたことである。即数人の部員が彼らにATtackを試みた。
 少しして、三人の見知らぬ顔が部室に連れ込まれて来た。そのうちの一人が件の小デブだ(しつこいようだが名前は知らない)。
 狭い部室がより狭くなったところで、俺はそいつに自転車の鍵を手渡した。それから瞬く間に時間が過ぎて、気が付いたら昼下がり。俺はこうして暴走トラックを走って追いかけているのである。そう、やつは今、暴走している―。

 こんな説明で何がわかるかと、非難の声が聞こえてきそうだが、俺はもう走るのに必死で、頭の中で順序立てて思い浮かべることもかなわない状態なのである。
 そうこうしているうちに、遥か前方に見覚えのある人影が見えてきた。暴走小デブではない。中学校のグラウンドの横を、太陽に向ってひた走っている女がいる。彼女は同じ部のSではないか。
 Sは俺と同じ方向に走っているが、こちらの方が足が速いため、徐々にその差は縮まっていった。
「こんにちは」
 俺が後ろから声を掛けた。
「あ、Y君…」
 Sが振り向いたのを確認して、俺は速度を落として並んで走った。
 少し話すうちに、どうやら彼女もあの小デブを追いかけているらしいことがわかった。しかしその話もすぐに途絶え、二人は黙々と走るようになる。俺達は市郊外にある環状線を歩道いっぱいに幅を取って走った。
 市街中心部に続く大通りとの交差点で、俺達は青いトラックが信号待ちしているのを発見した。
「あ、あれじゃない?」
 車の列の前から2番目、Sが指をさして言った。
「そうだ」
 二人は力を振り絞って足を速める。
 トラックまであと5台の距離までいったところで信号が青に変わり、トラックはどんどん離れていった。
「くっそー」
 俺は残った体力を全開に使って離れ行くトラックを追いかけた。
 Sも必死についてくるが…
「あ」
 ズシャッと後ろで音がして、振り返ると、Sは地べたに這いつくばっていた。もうかなり足にきているのだろう。
「Y君、私はもうだめだから、置いて先に行って」
 Sは息を切らしながらそう漏らした。
「ああ、そうする」
 俺は素っ気なくそう答えて、歩道に伏しているSをおいて、再び必死に走り出した。太陽はもう傾いていて、空はオレンジがかっている。
 環状線は緩やかな右カーブを為していて、そのときにはもうトラックの影は見当たらなかった。
 やつは暴走トラックと言えど、交通ルールは遵守して走っている。必ず、どこかの信号に止まっているはず。と自分に言い聞かせて、俺は必死に走った。
 もう空が赤く染まり始めた頃、俺は前方を走る青トラックを見つける。200b先の信号を右折。
 俺は直感した。あれは学校へ抜ける道だ。小デブは部室にかえるに違いない。俺は目的がはっきりしたところで、一層足に力を入れて走り詰め、その交差点を同じく右折した。
「!?」
 その道の先には高校が腰を据えて構えていた。しかしそれは俺の高校とは違う高校だった。道路は校門前でT字になっている。トラックは影も形もない。
 だが、俺はそんなことには気にせず校門から入り、その高校の敷地を突き進んで自校の部室に向った。
 校舎と校舎を2階でつなぐ渡り廊下の下を走り抜けようとすると、近くで談笑していた部活帰りの女子高生が俺に声を掛けてきた。
「クリッターのお兄さん。鉛筆削ってー」
 声を掛けた女子の周りの生徒は、キャハハと笑いこけている。特に他意があるようには見えないが、どうやら俺が一日中市内を走り回ったせいで、他校の生徒にまで俺のしていることが知れ渡ってしまったらしい。
 俺はそれを無視して、女子高生と赤く染まった校舎を背に、グラウンドを駆けていった。

 陽も沈んで東の空が藍色に染まり始めた頃、俺はようやくカナディアンロッジ風の我が部室に到着した。北側の斜面に位置し、周りに高い木々が茂るせいで、そこはもう、夜の様相を呈していた。部室から漏れる明りに照らされて、庭―もとい、階段の踊り場―で談笑している友達の姿が見える。
「おう、S也 帰ったか」
 そこに居た一人、Uスケが俺に声を掛けてきた。
「ああ…疲れた―」
 俺は、聞いただけでその疲労感が伝わる様な声で応えた。
「そういやあいつ居る?」
 俺は顔をあげてUスケに尋ねた。
 そう、俺は部室に帰って来はしたが、未だ目的は果たしていないのである。小デブに鉛筆を削ってやる…
「ああ、中におる」
 否!そんな当初の取って付けたような理由(こと)などどうでもいい。俺は今、暴走行為を謀り、俺に多大の疲労と心配と迷惑を与えたアイツを、怒鳴り散らしてやりたい気分なのだ。
「そうか」
 俺は素っ気ない返事に激しい憤りを隠して、部室のドアを開けた。
 白熱電球のオレンジ色に満たされた室内には、五、六人の部員が兼荷持置き場のイスに腰掛けていた。
 奥のベンチ―いつ、誰が、どこから持ってきたか知らないが―に、例の人物が頭を抱えて座っている。
「おい」
 俺は他のメンバーを全く無視して、そいつの前に歩み寄った。
「ああ、スマン。鍵 返す」
 頭を上げて、俺の顔を見るなり、ヤツはポケットから自転車の鍵を取り出した。
「…そうじゃなくて、今日ずっと青いトラックに乗ってただろ!」
 俺は、こいつの悪意ない口ぶりに、もどかしさを感じながら、誘導尋問を図った。
「あ、ああ、そうだ。俺、今日運転しながら ラリってたんだ。薬飲み忘れて…」
 そう、こいつはある種の精神障害を患っていて、一日に数回精神安定剤を服用するサイコ系なのである。でかい図体に似合わずオドオドしているのも、おそらくそのおかげだろう。
 だがしかし、俺はそんなとこではひるまない。
 怒りに声が震える。
「た、タバコ吸いながらか!!」
 俺は知っている。こいつがラリ運転中にタバコをふかしていたのを見た。
「い、いや スマン。俺 ラリってたんだ」
「―――!!」
 俺はここにきて、返す言葉を失った。筆舌し難い怒りに襲われた為ではない。俺は至って冷静だった。そして根は小心者だった。
 ここは本来、俺が怒りに任せてブチギレてもいい場面なんだが、なんたって相手は精神病者だ。もし逆ギレされて、見境なく襲い掛かってきたら…。あのガタイ良い体に潜む超怪力の前に、俺は屍を晒すことになるだろう。
「そ、そうか」
 俺は沸きあがる怒りを抑え込んで、それ以上切り出さなかった―。
 その時、小デブの右後ろの窓から、さっきまで庭で話していたUスケが顔を出してきた。
「忘れモン忘れモン」
 どうやらもう帰るらしい。Uスケは窓から手を伸ばして小デブの横に置いてある自分の荷物を掴んだ。そして持ち上げる際、左手を小デブのズボンのポケットに忍ばせ、ヤツの財布を抜き取った。
「ああ、俺の財布」
 流石に小デブもこれには気づいた。
 俺は、いつこいつがブチギレて、暴れ出すか気が気でならない。
「ああ?何言ってんだデブ!これは俺の忘れモンだろ」
 Uスケはわざとらしく怒ってみせて、小デブを挑発する。
「で、でも それは…」
 これから後のことは、もう俺の記憶にはならなかった。


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 ちょっと長いなあ。でも、あること全部書きたかったから。
 それではリンクを見て見ましょう。
 登場人物は全員僕の記憶にある人たちです。Uスケは中、高の時同じ学校だった人です。リーダータイプな人ですが、最後のようなことはしない人だと思います。Sさんは大学に入ってから知り合った女性です。はっきり言って見た目ダメです。そして問題の小デブですが、とあるサークルにいた頃、勧誘されて二、三回だけ来てた人です。僕が始めてその人を見たとき、彼は「俺、安定剤飲んでて、もうその時間だから、家に帰してくれ」と言ってました。ちょっとビックリしました。
 部活なんですが、何部かはわかりません、部室の外観もよくわかりません。きっと、テレビか何かで見たものです。でも、部室の中のイメージは高校時代のバレー部の部室でした。汚いです。
 高校なんですが、実は、僕の通ってた小学校と配置が同じです。上に校舎、斜面に階段があって、下にグラウンド、と。でも校舎は高校のでしたし、小学校のその階段には踊り場がありませんでした。
 走ってた市内は僕が今住んでいる都市でした。ちなみに、この夢を見たのは、帰省先の実家ででした。
 途中出てきた、他校は、渡り廊下付近が地元の高校(僕は高校そこじゃなかったんですが、何回も行ったことがあります)に似てました。
 工事現場のトラックが青いのは、僕の固定概念でしょうか。
 鉛筆削りの下りはさっぱりわかりません。女子高生が俺のことをクリッターと呼んだので、そういう名の職にしときました。ただ、クリッターというのは、遊戯王のカードにあります。先日、友達にデュエルを見せてもらった時、多用していました。便利なカードです。
 以上、こんなところです。