「夢物語解析」
'02.5.5(1)'02.5.5(2)'02.6.5'02.8.25'02.12.2'03.9.20'03.11.7'03.12.27'04.1.16


20021202

 中学校だか高校だかわからないが、春の遠足といえば当然のように登山だ。(そんなことはありません)
 標高1000メートルそこそこの山の頂上目指し、200人近くの大所帯が大挙して登り詰めるのである。
 ここはその登山口がある、とある牧場(農場)の一角。疎らに松の木が生えているが、出発式を行うためのちょっとしたスペースを提供してくれている。近くには木造の洒落た建物があり、辺りには牧歌的雰囲気を醸しだす独特の匂いがたちこめている。
 生徒・教職員は所々にある木を避けながら整列し、教頭の話をおしゃべりの片手間に聞いていたり…。
 教頭の意気揚揚とした挨拶が終わり、登山口に近い端のクラスから順に人一人がやっとの狭い坂路に入り始める。まるでほつれたセーターの毛糸を引っ張っるかのように、生徒の列は右から順に登り口に吸い込まれていく。
 それにしても学校側は本当にこの人数で登山を行う気なんだろうか?軍隊の山中行軍でもあるまいし、200人が一列に並んで登山なんて馬鹿馬鹿しい。第一、頂上にこれだけの人数を収容するスペースがあるとは思えない。企画者は誰だ?正気の沙汰ではないぞ。
 そう考えているうちに、俺のクラスが動き出した。今日登山するルートは、牧場を出てからしばらくは下り坂の続く山道である。後ろからクラスメートが山路に就く様子を見ていると、鬱蒼とした林の中に沈んでいくように見えて、些か気味が悪い。

 あ、そういえばこの牧場には米が働いてたな。中学の頃の友達なのだが、中卒で就職することになりここで職にありついたんだったな。中学の頃、米は就職決まったのにどこに内定したか教えてくれなくて、結局高校に入ってから、職場体験学習でここに来た時に判明。米と鉢合わせてビックリしたのを憶えている。みんなで冷やかしたりもしたけど、懐かしいなあ。今どうしてるんだろうか。
 俺は、見つかるとは思えなかったが、米を探して辺り見回してみた。近くのログハウスにはいなさそうだし、やっぱり牛舎とかにいるんだろうか。ここからは見えないが…。
 と、木の陰から遠くの丘を見ていた時、
「んんっ!!」
 遠くを見ていた俺は、その木にあるソレが何であるかわかり凍りついた。
 目の前の木の幹にすり鉢状の蜂の巣が掛かっている。
 おっそろしい、なんで今まで誰も何も言わなかったんだ、こんな近くに蜂の巣があるのに。
 と、まじまじとその巣を見てみると、働いているハチは大きなのが一匹だけということが判った。スズメバチだ。しかも女王バチかもしれない。これから第一期の働きバチが羽化してくるのだろう、巣の小室にはぎっしりとさなぎが詰まっている。はちきれんばかりのそれらは、蜂巣特有の六角形が判別できないほど各部屋からはみ出してきている。その巣はさながら、割ったザクロのようだ、白い大きな実のザクロ。そして女王バチは前足でそれらをなでるように叩きながらセッセと世話をしている。
 巣はそこそこの大きさ…、それを守るハチはたった一匹…。
 俺は思わず列を外れ、蜂の巣に近づいた。そして働いている女王バチを払いのけ、さなぎでぱんぱんに詰まった蜂の巣を木の幹からむしり取った。
 すぐに俺は列に戻り、そして流されるままに登山口に入った。最初の下りを軽快なステップで歩いていく。手にはザクロのような蜂の巣が。
 前方が詰まっているのか歩くペースが落ちてきた頃、俺は手にした蜂の巣をもう一度見る。……
 これを喰えば甘い蜜が得られる…。
 そう思った俺は、茶色い皮の白実のザクロにかぶりついた。
 結果は惨敗。口の中でハチの子がブチブチとつぶれ、どろどろした体液が口内に充満したかと思うと、すこぶる舌触りの悪い巣の皮が残るだけであった。
 俺はその場でハチの巣を吐き捨て、残りの欠けた巣も足元に投げ捨てた。


 しばらく歩いていくと、膝に鋭い痛みを覚えた。何事かと手で触ってみると何やら引っかかるものが、見ると膝の右下辺りに毒嚢の付いたハチの針が刺さっているではないか。急いでジャージの裾を捲り上げてみると、赤く腫れ上がっている。
「やべっ!」
 俺は慌てて針を抜き、毒を搾り出すように患部周辺をつまみ上げる。まだ塞がっていない穴から血が滲み出す。
 母バチの執念とも言うべきか、さっきの女王蜂であることは間違いなさそうだ。
 考えうる限りの応急処置を施した後、俺は人をかき分けてクラスの先頭の副担任のもとへ急ぐ。
「先生!」
 副担任の中塚が振り向く。その後ろには血相を変えた生徒(俺)が詰め寄っている。
「ハチに刺されたんです。スズメバチ」
「なんだって」
 俺と副担任は即刻、保健医のいる本部へ引き返すことにした。
「一応刺したハチの種類がわかるモノがあればいいんだが」
 そんなわけで俺たちは途中、俺の喰いかけの巣などを拾っていくことにした。


 徐々に激しくなる痛みに耐えながら、下を向いて黙々と歩いていると、ふと足元にペシャンコになったビール瓶を見つけた。茶色いビンなのだが、不思議なことに車に潰された空き缶のようにペシャンコのペラペラになっている。なぜだろう…
「お前、これはいかんだろ」
 俺が疑問の声を上げる前に、前を歩く先生が振り返り、それをさして俺をたしなめた。どうやらこのビールを俺が飲んだものと思っているらしい。
「俺じゃありません」
 即反論した。それを聞くと先生は黙ったまま再び歩き出した。俺はとりあえずその瓶を拾った。

 また少し行くと、今度は山道の脇にほったて小屋が見えてきた。鬱蒼とした林に呑み込まれるような寂れた景観に目を見張るものがある。しかし近づいてみると、そこにはビールの空き缶や空き瓶が山積みにされていた。マナーのなっていない登山者だろうか。
 先生は、今度は何も言わずにその横を素通りした。俺はさっき拾ったペラペラのビール瓶をゴミ山の上にそっと置いて、黙って先生の後に続いた。
 しかし俺はその時、少しばかりの罪悪感からか、足元に落ちていた空き缶を拾う。ゴミ山の淵のたった一つだけど、これを拾わずにはおれない衝動に駆られたのだ。

 更に数分歩き、登り口の近くになってくると、さっき俺が捨てたと思われるハチの巣の残骸が2人の先に見えてきた。喰わて捨てられた後、後続の生徒達によってぐちゃぐちゃに踏まれたらしく、もはや原型をとどめていない。
 それでも中塚は、かがんで、ハチの巣と見られるその周辺の土を物色し始めた。手持ちぶたさに突っ立つ俺の前で、副担任は潰れた巣からセッセとハチの子を拾い集めている。どうやら原型をとどめている奴がいるようだ。
「これぐらいだろ?」
 それまで黙って作業していた先生が、急に上体を起こし、俺に手の平を向けてきた。掌中には3,4匹のまだ生きているハチの子がいる。白い座薬のようなそれは、ぷりぷりとして些か美味そうである。
「そうすね」
 俺がそれだけ言うと、先生は頷いてハチの子と巣の欠片をポケットにしまい込んだ。
 上り口はすぐそこである。2人は跳ねるように大股で駆け上り、広いスペースに躍り出た。
 牧場の木陰には待機中の先生達の姿が見える。
 その中の一人に、担任の市岡がいた。彼は中塚を見てから俺に目を移し、歩み寄ってきた。
「ハチに刺されちゃいまして。へへへ」
 市岡が何か言おうと口を開く前に、俺は先手を打って照れ隠しをした。外見はどうってことなさそうなのに、リタイヤしてきた自分を見て先生は何と思うか考えると、恥ずかしくなったのである。
 市岡は口をつぐんだ。
「どんなハチ?」
 保健の松田が横から聞いてきた。
「スズメバチです」
 俺がそう答えると、中塚はポケットからハチの子と巣を取り出して松田に差し出す。
「患部を見せて」
 俺はズボンを捲くり上げ膝を見せた。膝の右下が赤くなってさっきよりボンボンに腫れ上がっている。
「病院に行ったほうがいいわね。とりあえず休憩所で待ってなさい。車出してもらうから」
 松田はそう指示すると、車を出してくれるよう他の先生に頼んだ。
 市岡はというと、実は待機していたのではなく、これから登山に行こうとしていたらしく、事の顛末を見届けることなく早々に往路についていた。
「それにしてもどこで刺されたの?他の生徒は刺されなかったのかしら」
 俺が中塚と二人で休憩所に向おうとしていた時、松田が尋ねてきた。俺と副担任は事細かに、事情を説明した。
 それを聞いた松田は、
「ああ、何て事をしたの!?まだ害もない小さな命を無下にするなんて!子供を必死で守ろうとした母親の何てかわいそうなこと!…!…!」
 ちょっとヒステリックに叫びだした。
「かわいそうな小さな命を鎮めなくては!」
 そう言うと松田は、中塚からハチの子と巣を奪い取るようにもらうと、近くの切り株の前に跪き、切り株の上にそれらを並べてその台座に何か書き始めた。そして呪文らしきことを口走り、何かの儀式が始まったようである。鎮魂の儀式だろうか。俺はその怪しさにたじろいた。
 俺にはそんなことにのんびりと付き合っている余裕はない。今にもハチの毒が全身を駆け巡って死んでしまうかもしれないのだ。俺は少し焦った。楽観はしていたが、一抹の不安は拭えない。
 松田はほうっておいて、とりあえず休憩所へ入る。休憩所と言っても自販機が一つとベンチが二つ並んでいるだけの、3畳ほどの小さなスペースである。
 そこにいくと、俺より先にリタイヤした奴がいた。名前は忘れたが見たことのある男子だ。俺もかなり早いほうだったが、もしかして彼は登ってないのか?
 俺は無言でそいつの隣に座った。相手も無言である。少しばかり圧迫感がある空気が流れる。こういう空気には慣れていたので俺は黙って座っていた。
 そこへとも春君がやってきた。自販機でジュースを買うと、もう一方のベンチに腰を下ろした。
「こんちはっす」
 俺はとりあえず挨拶した。彼は同じ中学バレー部の2つ上の先輩である。
「ウィッス」
 いつものように返してくる。そして他愛もない会話で二言三言。
 すると今度は海老さんが休憩所に顔を出した。彼もバレー部の先輩で、とも春君とは同い年である。
「おお、ここにおった」
 海老さんの、引きがあるようなしわがれた高い声がとも春君に向けられる。
「なんや?」
 とも春君はジュースをベンチに置いて聞き返した。
「山ちゃんにヨロシクって」
 俺には何のことだかわからないが、とも春君は
「オウ」
 と返した。海老さんは早々と行ってしまった。
 その後すぐに、また見慣れた面々が登場した。4人組で。バレー部の一つ上の先輩の竹谷さんとヨースケさん。中学時代バレー部の同輩の幸志郎と、そして米がやってきた。米は仕事が一段落ついたのだろう、手にピンクのゴム手袋をはめている。
「うおー吉田じゃん!」
 ヨースケさんが声を上げた。
「久しぶりー!」「よッスぃーだ・さん!」「はははは!」口々に言う。
 俺は立ち上って寄って行った。皆、屈託のない笑顔で迎えてくれる。
 そして一人一人握手した。右からヨースケさん、米、竹谷さん、幸志郎と。
 米との握手の時、彼はゴム手を付けたままであったため、隣のヨースケさんに
「取れよー」
 と言われた。俺と米は、ての甲と甲を合わせる変わったスタイルの握手を取った。それを見ていたとも春君は思わず
「何だよ、それ」
 とつっこんだ。
「今、流行の握手なんです」
 俺は答えた。みんな笑っている。

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 荒唐無稽ですね。特に最後、僕の下手さも加わってまさに日記のようです。
 さて、現実とのつながりですが、登場人物は全てで実在します。設定はかなり違いますが(特に米。彼はまだ学生です)。
 教諭陣は高校と中学が混ざってました。市岡は高校の時の担任で、松田は中学のときの(なぜか)隣のクラスの担任です。中塚は先生ではないんですが、大学サークルの顧問みたいは感じの人です(まあ、教師ですか)。出てきたので無理矢理副担任にしました。
 ヨースケ、竹谷、幸志郎、米はみんな中学のときのです。とも春君も海老さんもです。竹谷さんとヨースケさんはいつも仲がよかったです。ただ、この6人は米以外かなり曖昧で、他の人でもよかったような気もします。特に、とも春君と海老さんの会話では、山ちゃんも含め3人ともとも春君(のこと)だったような気もします。彼の苗字が思い出せなくて、たくさん出てきたのかもしれません(山ちゃんはその途中の産物、そんな人いません)。
 舞台は主に牧場ですが、どこかよくわかりません。出発式を行ったとこは前年の枯れ松葉で地面がいっぱいでした。地元の地区広域圏内に、牧場はありますが。
 山道は、入り口は地元の近くの山の下山路に似てて、中塚に追いついた辺りはウチの山の道(風景)でした。
 小屋とかゴミは知りません。ハチも不明。

 最近はよく夢見るんですが(一晩、特に朝方に2,3個ほど)、布団から出るとすぐ忘れるんでなかなか書けないんです。むしろ絵にした方が良い(それしかない)と思われるのもあるので、これからは絵でも表現するかも。