「夢物語解析」
'02.5.5(1)'02.5.5(2)'02.6.5'02.8.25'02.12.2'03.9.20'03.11.7'03.12.27'04.1.16


 自転車を駆って山道を下っている.山道と言っても,舗装もされていない,人一人の往来しか考慮されていないような狭くて,つまり獣道のような道だ.いや,こう言うと先人達には失礼かもしれない.これでも立派な道だろう.その役割は充分に果たしているのだから.問題があるとすれば,そこを自転車などで走っている自分の方だ.
「おい,あんちゃん!気ぃ付けろや!」
 少し広い場所で追い越した,鄙びた服を着た中年が後ろから呼びかける.どこかで見たような,―ああ,そう言えば隣家の主人か.
「ええ,どうも」
 とりあえず笑顔で挨拶する.俺は,山肌に沿って曲がり,再び狭くなる道を前に,減速した.片手は山だが,もう一方は崖,樹の海である.細心の注意が必要だった.
「おいっ!上っ!熊だ!熊っ!降りてくるぞ!」
 後方のH氏が突然怒鳴った.その声で斜め上を見上げると,山の斜面からもの凄い勢いで黒い塊が駆け下りてくる.熊だ.しかしこちらに突進してくるわけではない.黙ってみていれば,目先を掠めてそのまま下に落ちていってくれるようだ.
ドドドド
 案の定その熊は,道など無いようにをそれを横切り,斜面を下った.
ズザザァ!
 ところが直後に下から変な音がして,と言っても落ち葉の堆積した地面を滑るようなあまり突飛ではない音だ,下を見ると,熊が大の字(?),手足を拡げて突っ伏しているではないか.そして痺れたように,しばし沈黙している.
「なんしたんやろ?」
 おっさんが駆け寄ってくる.下では熊が肩で息をしている.
「少し小さいような気がしますね」
「んー.でも小熊じゃないわ〜」
 よく見れば見るほど,黒光りする剛毛の下に,力強い筋肉が浮き出しているのがわかる.だが疲れたのか大きく息をしたまま動かない.
「ほっといてもいいっちゃ.なんもせんやろ」
 おっさんは早々,楽観的な結論を出した.しかしもう少し見ていようという好奇心からか,これも動こうとしない.俺もそうなのだが.
 しばらくすると熊は,巨躯を震わしてのそっと立ち上がった.
「お,立った」
 そして,まるで恨めしそうに,我々の方を振り返って見上げる.
「なんやろ?」
 すると熊は,今落ちてきた斜面をよじ登ってくるではないか.こちらに突進してくる勢いだ.
「逃げた方がいいんじゃないですか」
「なーん,むやみに刺激せん方がいい.じっとしとれ」
 熊は瞬く間に崖を登り,左右に退いた二人の間に割って入ってきた.そして俺に向かってゆっくりと歩いてくる.俺は後ずさりをする.
「(おい.逃げろ!)」
 向かいのおっさんが熊を刺激しないよう小声で,手を返すジェスチャーも交えて指図する.
「いまじっとしとれって…」
 小声で,舌打ちに愚痴をこめながら,熊に背を向け,即座にサドルに跨ると,思い切り漕いだ.
 当然のように熊も走って追ってくる.
 目の前に直角カーブ.
「おし!そこ曲がれば熊は(真っ直ぐしか進めんから)落ちてく!」
 ずっと後方で,無責任なおっさんの声が聞こえる.このスピードで曲がれるかって.しかし減速すれば熊に捕まる.
 眼下に崖が,そして目の前には崖にL字に付きだした松の木.
「うっ」
 と小さく漏らして車体を横に滑らせる.
ガザザザー!
 だがスピードはまだ過剰.
「……!」
 目の前に木.
 上手くいくか!?
 ガシャッ!
 俺は自転車の腹をL字の_に乗せ,斜面の上で止まった.
 熊は?
 振り向く俺の横を,木との衝突を避けて反れたため,その勢いのまま崖下に飛んでいった.
「はぁー」
 俺は自転車を道に倒し,木の幹に座り込んだ.眼下には山が造った緑の巨大なすり鉢が底を見せる.底からせり上がってくる正面の山々まで,数歩でたどり着けそうな感覚を覚える.
 俺はまた自転車で山道を下り始めた.


 脇道から出て,ようやく舗装した道路に出会った.この道路は,海から山間の川に沿って登り,川辺を離れまた登り,この辺を頂点に反対側に下り始め,平地に出る,山越えの道である.海辺と平地の間にはもっといい道路があるから,ここを使用する人と言えば,森林組合か土地の者だけである(春になれば山菜採り(泥棒)に来る人もいるが).
 ここから少し下ったところに,少し前まで集落があった平らな(緩やかな)場所がある.自然の木々と混同しそうな屋敷林に囲まれた家屋や家屋跡が散在している.昔は山に(平地側から)あがってきて,開けたこの場所に出ると,山に挟まれた手狭な地面いっぱいに田んぼが敷かれていたのだが,今はほとんど休耕田で,背の高い雑草が生い茂っている.どの田んぼにも呼称があったのだが今はもう使われることはない.
 しかしそこにある小さな神社だけは綺麗に整えられ,今でも,以前この地に住まっていた人々によって新嘗祭くらいは行われている.

 さてこの地に,松田優作っぽい人が俺に付随して来たわけだが,突然さっきの熊がいる.
 よくわからないが人型になった.荒々しく毛深い,山賊のような人を思い浮かべるかもしれないが,そうではない.熊は,割とほっそりとして,肌もつるつるで,しなやかな筋肉を有して,バンダナを頭に巻き,袖のない薄着を着た,まるで海賊のような人間になった.
「やぁっばいぞー」
 隣人はよくわからないキャラだ.しかし風貌は松田氏に似ている.
「ひゃっははははー」
 熊が甲高い笑い声を上げて飛ぶ.襲ってくる.跳躍力がすごい.パワーもありそうだ.これは逃げた方がよい.
 ズドォ!
 二人の間に熊が着地し,地面が抉れる.
「な,な,なんだよっ!こいつ!?」
 松田氏似が素っ頓狂な奇声を上げる.
 俺は刺激しないよう黙って逃げた.しかし何故か熊は,俺を狙ってくる.両手には,誰かが捨てたのか,空き瓶を握っていた.
 速い.あっという間に背後に付く熊.
「ひっ!」
 俺はとっさに倒れ込むようにしゃがんだ.
 ピシャァッ!
 木の幹にぶち当たった空瓶が,小気味よい音を立てて爆ぜた.映画で使う樹脂製でないことは確かだ.割れた瓶は刃物になった.
「ふぇっひゃっひゃっひゃっひゃ」
 熊はその鋭利な切り口に見とれ,不気味に笑う.当然俺はその隙に逃げる.熊は見つめるをれを突き刺そうかと言わんばかりに,気味の悪い笑いで俺に振り向く.
 俺は休耕田に入った.そして段々になっている田を転がり降りていった.熊は一飛びで田一枚を超す.圧倒的に速い.
 それに加え,俺の前に崖が現れた.高さは家屋の2階くらいの高さで,降りれないことはないが,土で出来た田のはずなのに,なぜかそこだけ岩の断崖.下は車一台が通れる砂利の小道だ.崩れを防ぐ石垣という理屈もわかるが,少し躊躇わずにはおれない.そのうち熊が背後に迫る.
 有無を言わせず俺は飛んだ.下は砂利道.転がって,上を見上げて,しまった!と思う.
 熊は石垣の上でその様子を高みの見物.瓶で肩をタップして,笑っている.
 この石垣を崩されたら終わりだ.俺は尻餅をついたまま後ずさる.
「や,や,止めてくれ〜!殺さないでくれ!」
 言葉がわかるかわからないが,とにかく必死で命乞いをする俺.
「あー.あ〜?」
 人の姿のくせに言葉の一つも理解できないらしい.絶体絶命.
 しかしそこへ,
 ブロロロッロー
 事態が進展を見せた.一台の車が山道をあがってくる.熊もそちらの方に向く.
 忘れていた松田似がすかさずその車に駆け寄り,停車させる.
「おい!こっちだ!熊公!」
 車の近くまで寄って行って,車の影から熊に向かって大声で叫ぶ.車から出てきたのは,アジア系のちんぴら三人.松田似は,持ち前のなんとかでそれらを恫喝し,車に押し込み,囮にさせたようだ.
 一方熊は,それに興味を示したようで,俺のことは忘れて,そっちに体を向けている.しかし今動けば奴の気にとまる.ここは動かない方がいい.
 熊は容易く松田似の扇情に乗って,車に襲いかかった.なんのことかわからないが,脅されたとおり三人は車を発進させる.出来るだけ遠くに熊をおびき出し,その隙に我々二人は,山道を反対方向に逃げる.という戦法だ.
 ところが,三人のちんぴらは,熊の異常な身体能力に畏れをなし,車を捨て,田んぼのあぜ道を渡って,こちらに舞い戻ってくるではないか.
「ばかやろう!てめえら!こっち来るんじゃねえよ!」
 松田似が一人のチャイニーズの腹にブローを入れる.
 その間にも熊は,迫る.やはり絶体絶命.
 我々は逃げた.風景の枠外に逃げていった.だからこの夢はこれでおしまいね.

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 うちの山が舞台の夢です.だから,別に言わなくていい説明まで付けてしまいました.余計わかりづらくなってすんません.
 現実とのリンクを検証したいんですが,なにがなにやら.しかも中身書き終えて,この後書き書く時間なしに実家帰ったら,詳しい内容もう忘れちゃったし.というわけで,今回はなにもできない.