「怖い話?」(11/2)
junkなんですけど、なかなか上手くいったので載せます。
少しふざけてるところがjunkっぽくて、名に恥じてません。
あまり恐怖とかは意識してないので、怖くはないです。


 深夜2時15分、辺りは虫獣さえも寝静まり、ひっそりと沈黙を保っている。木々のざわめきも、早瀬の水の音も、山を静寂に包む一端となっていた。そんな中を男達の甲高い笑い声が木々の上を通り越し、一つ山の向こうまで木霊している。
 人里離れた山奥の、寂れたレジャー施設の駐車場で、若い男数人がバカ騒ぎに興じている。高台にあるキャンプ場の付属駐車場には、彼らの乗ってきたワンボックスカー以外には車一つ見当たらない。もちろん更地のようなキャンプ場には、灯りなど灯っていない。
 今、この山奥の小さな空間は、若者達の独壇場と化し、彼らは誰にも迷惑をかけることなく、自分達の世界にハマっているのであった。
 男の一人が、車の後部座席から、一袋の花火を持ち出してきた。麓の町のコンビニで、季節に順じて安売りしていたものだ。男6人は皆、手に手に花火を持ち、地面に据え付けた蝋燭や、自前のライターで導火線に着火する。
 間もなく花火は推進火薬に点火され、悲鳴のような笛音を立てて静寂を切り裂いていった。
 乾いた爆発音が鎮守を破ると、男達はますます盛り上がっていく。彼らは奇声を上げて次々と駐車場下の谷に向ってロケット花火を打ち込んでいった。
 コンビニの袋からは信じられないほどの大量の花火が出てくる。40メートルは飛翔する羽つき花火や、手持ちの5連、10連、20連打ち上げ花火、大砲のような固定式打ち上げ花火、照明弾のように強烈で持続時間の長い光…。どの花火も強大な光と音で千古の静寂を圧殺していった。
 木々は靡き、森がざわめく。
 華々しい光と音の競演に心を奪われていた6人だが、そのうち一人がふと背中を走る悪寒のようなものに気づいた。といっても、冷や汗が背筋を伝うような些細な兆候であったために、彼は何も怖れることなく輝く花火から目を背後へ移した。
「どひー!!」
 彼は小さく息を呑んで絶句し、その場にぺたんと尻餅をついた。驚愕の表情を浮かべ、震えながらある一点を見つめる。
 花火の残像ではない。彼の目にははっきりと映っている。向かいの林の前の道路に、小さな女の子が立っているのだ。白い服に白い肌、白い髪の10歳位の女の子が、寥寥とした林を背に浮かび上がっていた。
 若い男は腰を抜かしたまま後ずさる。すぐにでも振り返って仲間に知らせようと首を捻るが、どうしても目だけがその少女から離せない。白い少女の目は些か笑みを含んでいる。
「おひょ、おひょ」
 声にならない声で、強烈な閃光と爆発音にのめり込む仲間たちに助けを求める。
「アン?」
 その内一人の足に、後ずさる男の背中がぶつかって、仲間が振り返った。
 足元には首を半分だけ回して怯える友人が。
「何ショパン?大気」
 その異様な状態に不審を抱き、思わず問い掛ける。
「あう、もう、おぎゃー」
 大気と呼ばれた少年は、目線を暗闇に向けたまま、うめいた。顔には戦慄の様相が表れている。
「どこさ見ッテラン?」
 そう言って、この男は慎重に大気の目線の先に目をやる。
「ヒンッ!!デンブルク!」
 今度は絶叫した。
「何でサー!?空気?」
「おら!大気まで、何しょってん?」
 これには流石に他の仲間たちも気がついた。
 異様な態勢で震え戦慄する二人に、花火を置いて全員が詰め寄る。
 空気も、大気と同じく、白い少女に目を奪われたまま異常に怯えていた。考えるまでもなく、二人の視線の先に何かがあると見て取れる。
「なにが…」
 詰め寄った4人は恐る恐る林に目を向ける。
『!!?!!!!!!!?!』
 6人全員、白い少女に釘付けになった。目が合ったまま離せない。
「うにょー!」「にょにょにょ、にょにょにょ、にょにょにょにょにょにょー!」「りんぐ狂!?」「ら!ら!らりらりあっらりー!」「バーサクだ!ぎゃー!!」「だからインスリン」
 一同はパニック状態に陥った。恐れ、焦り、半狂、揃いも揃って皆同じ顔で戦慄し、同じように怯える。
 わめきまわる6人の騒然さとは対照的に、向かいの少女の方は相変わらず笑みを湛えて微動だにしない。静かだが、またそれが、その存在感を膨れさせる要因となっている。背後の森の昏さと、異質な白さによって、この世のものとは思えない雰囲気を醸していた。
 男達は膨れ上がる相手の存在に対抗し、怖れと焦りを糧に狂い叫ぶ。
「う、う、うおおおぉぉりゃぁぁぁ!!!!」「ヒッキィイイ!!!」「スッスッススッス!王ー!」「でやぁ!でやぁ!でやぁぁぁ!」「うおぉ!うおぉ!うおぉぉぉ!」「ピッ!ピエェー!ール・キュー!リィィー!!」

 ―クズが…

 まるで時間の隙を突いたように、突然少女の口が開いた。それはほんの少し、僅かに唇が揺れる程度であったが、6人の男達には朗々として響き、その意図するところが明瞭に伝わってきた。一瞬にしてこのサイドは沈黙に返る。
 ―来な
 表情にはもはや笑みはなく、声には怒気さえ混じっている。
 6人は操られたように動いて、少女の方にふらふらと近寄っていく。どの目も一歩歩くごとに生気が失せていく。
 全員が駐車場から林道に差し掛かったとき、
 ―ここは目立つよ
 そう言って一瞬、口の端が上がったかと思うと、少女は踵を返して昏い林の中に入っていった。
 6人はその後に続き、先が見えない寒林に次々と足を踏み入れていく。

「キsyaaaaaaー」
 どこからともなく舌なめずりが聞こえてくる。