「森の小話」(4/30)
これも朝刊に送りつけました。
童話です。構想から完成まで4時間というペースでした。
題名に1時間費やしました。



 カーナ森のリースはケヤキの幼樹。
 
 まだ小さいリースの隣には、大きな木がいます。名前はレック。カーナの森で一番ノッポなセコイアの木です。
 
 リースはいつもレックから遠く森の向こうのお話しを聞いています。レックのお話しはいつもワクワクします。
 
 今日もレックは夜明け前から遠くの様子を教えてくれます。

「リース、森の向こうの地平線が白くなってきたよ。民家の煙突からも煙が昇り始めた。僕よりずっと背が高いね。」

 レックはずっと遠くを見つめています。リースはそんなレックを下から眺めます。

「ねえレック。レックは長い間お空を見続けて大きくなったのに、どうして煙はそんなに早く大きくなれるの?」

 レックは煙を眺めて言います。

「煙は空が好きなんだよ」

「レックよりもたくさん好きなの?」

「僕も空は好きだけど、煙はもっともっと空が好きなんだ。」

 するとリースは泣き出しそうな顔をしました。

「レックは森で一番空が好きで、だから、カーナの森で一番のノッポになったのに、どうして煙はもっと好きなの」

 レックはリースを見下ろしました。リースもレックを見つめています。

 リ−スは空が大好きでした。でもノッポのレックはもっと空が大好きです。リ−スはそんなレックが一番好きでした。そのレックを笑い飛ばすように抜いていく煙を、リースは好きにはなれません。

 レックはすこし困ったような顔をしました。けれどすぐにお話しを続けました。

「煙はね、朝に空が白くなってくると、空と同じように真っ白くなって太陽を迎えるんだ。昼に青空が広がれば、煙は青く細く身をなびかせ、空に身をゆだねる。午後に雲が空を覆ったら。真似をしてねずみ色になったりもするよ。夕暮れには赤くなって夕日の美しさに感動し、夜になれば月や星と同じように夜空を飾るんだ。」

「煙はお空になりたいの?」

 リースはレックよりもっともっと高い空を見上げました。

「そうだよ、煙は空のことが一番好きなんだ。やがて煙は空高く上がって、ついに空と同じになるんだよ。」

「お空になっちゃうの?」

「煙はずっと高いところでお空になるんだ。リースはお空のことが好きだよね。」

「うん。大好き」

「僕もお空は大好き。それにお空になる煙も大好きだよ。リースも一生懸命お空になろうとしている煙のことを好きになってあげてね。きっとお空は優しくなでてくれるよ。」