「追憶の魔女」(5/19)
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三、二人の暗殺者

「おいおい、どうしたってんだよ」
 ガロン・リッターは双眼鏡をのぞきながらこぼした。
「なんで総大臣の周りにあんなにジグ(珠術者)が居んのかねー。警戒されてんのかね?」
 ジグマッサー(精霊使い)を周りにつけることは、精密なレーダー探知網を張るのと同じことである。
  つーことは、こっちの計画がバレてるって可能性があるなあ。
 ガロンはバイルート宮殿から200m程離れた建物の4階に居る。ジグマッサー(精霊使い)のスキルにもよるが、これくらい離れていれば、感知されることはない。
「全く、どこから漏れたんだろうね。こんな重要事項」
 ガロンはぼやきながら窓辺を離れ、壁にかかるロングコートを取った。
 ずっしりと重いコートの内には、火薬、毒薬、劇薬などがしっかりと留めてある。
 ハイヤーワムは、ガンマンや砲撃士、医師から科学研究者まで、多岐にわたる職を有する職門である。それぞれの呼ばれ方は省略するが、薬を扱うガロンはドゥ‐ハイヤーワムと呼ばれる職に入る。
 ガロンはそのがっしりとした肉体と、特殊な試験管を隠すようにコートを羽織って、部屋を出た。
「暑い。やっぱり持ってこなけりゃよかったなあ」
 今は春から夏にかけての爽やかな時期。一歩外に出れば太陽が眩しい。
 この季節、朝や夜は別として、昼間からロングコートはいない。
「オレとしたことが。その気になってコートなんぞ羽織って、これじゃあ変人じゃないか」
 自嘲気味に言葉を捨て、ガロンは泊まっているホテルにまた戻っていった。
 再び出てきたガロンは、淡い青のポロシャツに、白のズボンという出で立ち。これなら目立つことはない。

 一方、こちらはネオン。いつもの様に、周囲の、出来るだけ多くのパス(精霊)を警戒しながら、市内を巡回している。グラムに入ってから既に5日経っていた。
  もう5日…。なんでこう、音沙汰ないんだ。ガロンがこんなにノロマだったとは…。
 郊外に出て、近くの小川の土手に腰掛ける。
「疲れた」
 身体は休んでいるが、怪しい人物を探るパス(精霊)のチェックは止めていない。
 平和な時代とはいえ、市民が安心しきって生活出来るわけではない。街中に、怪しい行動をとる人物がなんと多いことか。窃盗、麻薬密売、暴行…、ネオンのムダ骨は十件を超えていた。
 かといって、ここで仕事を破棄すれば、次の仕事はない。生きていくためには金が必要で、仕事が要るのである。
  私はジグ(珠術)の使い方が下手なんだろう。応用が利かないというか、威力は凄いんだが、どうも組み合わせが悪い。
「なにかいい方法はないものか…」

 ネオンの仕事がいつも単調に終わるのは、応用が下手だからである。
 それでもあっさりとカタがつくのは、その強大なジグ(珠術)のおかげである。そして、彼女の力の秘密は、その特異な体質によるものだ。
 ジグ(珠術)は、というよりパス(精霊)の強さは、そのものの存在した時間の長さに比例している。例えば短命の火と長命な石で比べると、火は非常に扱いやすく、術者の拙巧を問わないが、石より威力が小さい(エネルギーの無駄が多い)。石は確かに強いが、上級者向けで、用途が狭い。これは人間にもいえることで、特に術者の年齢はスキルよりも大きく関係してくる。
 そしてネオンは非常に長命で、老衰がない特異体質。容姿は20歳前後で止まったままであるが、彼女は少なくとも150歳を超えている。
 ジグ(珠術)を体得した当初は平凡な才能であったが、今となってはこの世界で三本指に入る程の術者となっている。

 そして、今その魔女が一人の人物に的を絞った。